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世界一周ツーリング日記  1995年6月〜1998年6月
15 メキシコ入国、バハ半島 1995/8 メキシコ
長らくお世話になったタッドさんにお礼を言ってロスアンゼルスを出発する。南へ、メキシコへ向かう。
ロスアンゼルスを離れると急に空気が澄んできて、遠くの景色まで見えるようになった。空も青くなった。

暑い!草木が生えない荒野の中を走る。だんだんと山が両側から迫ってきた。と、同時に後から凄まじい風が吹いてきた。
山に挟まれたその地域は風の通り道になっていて、吹きっさらしの平原を駆け抜けてきた風は両側の山によって中央に圧縮され、その谷を抜けていく。その先には直径20メートルぐらいの3枚羽根の発電用風車が、何十、何百と回っていた。

夕方にごちゃごちゃとした町に着いた。どうやら国境らしい。
メキシコに入るのは明日の朝にしておく。とりあえず安モーテルにチェックインする。
暑いのでモーテルのプールに飛び込む。水は冷たすぎないくらいに温まっていて快適だ。
今日はアメリカ最後の夜、先進国最後の夜か。言葉も通じなくなる。
明日からのことを考えるとワクワクしてくる。不安がないといえばうそになるが、そんなものは期待の前には微々たるものだ。
プールからあがり、夕食を食べに外にでる。

日は完全に落ちたが空気はまだ暑い。まだアメリカの町だが歩く人もメキシコ人が圧倒的に多い。ここは有名なティファナとは違う別の国境なのであまり一般的でないのか、白人の姿は少ない。
国境のゲートがあった。この鉄柵の向こうはもうメキシコ。
その先はずっとずっと見果てぬ国々が続いている。

エアコン付きだったモーテルの部屋を一歩出るとむあーっと熱気に包まれた。今日も暑くなりそうだ。
さあ、いざメキシコへ。国境へ向かう。
メキシコは72時間以内なら書類なしで出入国できるので、たくさんの車が素通りしている。しかし自分はもうアメリカに戻らないので、ちゃんとツーリストカードにスタンプをもらう。人間の入国はこれだけだ。しかしバイクの入国は面倒そうだ。
すべての書類とそのコピー、そしてクレジットカードでの手数料の支払い。あちこちの事務所にいってサインをもらい、また係員もあちこちまわる。そしてバイクの風防に銀色のステッカーを貼ってもらってやっと手続きは完了した。やれやれ。
入国に一時間半もかかってしまったがこのメヒカリの役人の人達は親切だった。一年前に徒歩で通ったティファナの役人はふんぞり返っていて横柄だった記憶がある。

「いい旅を!」といって送ってもらった。ありがとう。
ゲートを一歩出るとメキシコの町だ。町はごちゃごちゃしていて薄汚く、町を歩いている人も、走っている車もボロボロだ。
どうして国境の一本の線を越えただけでこんなにも違うのだろうか。
めまいがしそうな程のそのギャップにうれしくなって笑ってしまう。
メキシコに入ったぞ!

町を出て南へ、メキシコ湾へ向かう。
辺りは茶色の山と茶色の地面があるだけだ。青い空と乾いた大地の中を70〜80キロで走る。路肩には事故車が転がっているが、裏返しになっていてエンジンや、デフ、サスまでむしられているので錆びたシャーシしか残っていない。
やっと海が、メキシコ湾が見えた。それを左手に見ながらさらに南下する。
するとサボテンが現れてきた。荒野の中にニョキニョキと大きなサボテンが5〜6mの高さにまで伸びている。いかにもメキシコらしい景色に感激して写真を撮る。

夕方5時頃舗装路終点の町に着いた。ここから先はずーっとダートが続く。ここに泊まる予定だったが、死んだような町だったので先に進むことにする。
そこから先は洗濯板みたいなギャップが続いていた。ガタガタと走りにくいことこの上ない。100キロくらいまでスピードを出せばかえって走りやすいが、たまに大きな石や、カーブがあったりするのでそれも無理だ。
おとなしく30〜40キロでゆっくり走るが、まったくおもしろくない!これがXR600で荷物もなかったら・・・・。

まわりは砂漠だ。前方に突然動物が2匹飛び出してきた。ピューマがうさぎを追いかけている。しかしバイクに驚いたピューマは獲物を取り逃がしてしまった。「チクショー。邪魔しやがって」という顔をしてこっちを見ていた。
砂漠の中にポツンと小屋が現れた。どうやら店らしい。小屋をのぞくと、目がぎょろりとしたオヤジと一匹の犬しかいなかった。
「飲み物ありますか?」「ビールならあるよ」「食べ物は?」「ない。ビールだけだ」。のどが渇いたのでビールをもらう。なぜかビールは冷えていた。
こんな砂漠の真ん中でどうやって生活しているのだろう。
そろそろ日が暮れてきたのでキャンプするところを考えよう。
道から直角にはずれて人や車が来そうにないところを探す。この辺でいいかな。何かの巣なんだろうか、地面に直径5cmくらいの穴がたくさんあいている。
よしここにしよう、テントなしで星を見ながら寝るか、とマットを地面に直接置こうとした時、ジャーッ!と音がして体が凍りついた!
ガラガラヘビが目の前にいた!
ジャーッ!と警戒音を出しながらとぐろをまいてこっちを見ている。

あと一歩踏み込んでいたらガブリとやられてバハの砂漠で死んでしまうところだった。急にさっきの穴がすべてヘビの穴に見えてきて背筋が寒くなっり、逃げるように、いやほんとに逃げて元の道に戻る。
すごいぜ、さすが砂漠。甘く見ていた。いや、ほんとに死ぬところだった。
もう完全に暗くなってしまった。近くの海岸に行くことにする。
硬く締まった砂浜に直接マットを敷き(ここなら大丈夫だろう)、そのまま横になる。
空にはもの凄い数の星が見えた。天の川もくっきり見える。
星が多すぎて星座がわからない。

夜中に目が覚めた。大きなメキシコ湾の水平線上にオレンジ色の光が見える。船の明かりかと思ったら、月だった。
水平線から昇る月なんて初めて見た。

やっと砂漠のダートを抜けて、太平洋側の町に辿りついた。
銀行でアメリカドルをメキシコのお金ペソに両替する。1ドルが6ペソになった。手にしたお金で2日ぶりにメシを食う。
全土砂漠の細長ーいバハカリフォルニア半島を、国道は太平洋に出たり、メキシコ湾に出たりとジグザグに走る。

褐色の大地と青いメキシコ湾のコントラストが美しい。約1000キロ走ると遠くにラパスの町が見えた。町の入り口に人口1万4000人と書いてある。大きな町だなあ!もう一度見ると14万人だった。
ラパスはバハカリフォルニア半島の南端に近い、半島最大の町だ。ライダーにはバハ1000マイルレースで知られている。バハ半島北部のエンセナーダからここまで、あんな砂漠を1600キロも、しかも17時間で走るなんて!


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