日本から送ってもらった書類は届いてますか?」
「いいえ。来ていません。」
あいかわらず大使館職員の返事は冷たい。
もう何度このセリフを繰り返しただろうか。
バイクの発送と自分の出発が近かったので、船会社に預けておいたバイクの書類をバンクーバーの日本大使館宛てに送ってもらうように頼んでおいたのだが、とっくに来ているはずなのにまだ来ない。
船会社に電話してももう送ったという返事だ。
書類はどこにあるんだ?
書類がなければバイクを受け取る事ができない。
書類がなければ何も始められない。
「また来ます。」
いつものセリフを残して大使館を出た。
通い始めて10日が過ぎた。
「書類は届いてますか?」 「確認してきますので少々お待ちください。」
これもいつものセリフだ。
「ちょっと中に入ってください。」
ええ、どういうことだ?
誘導されるがまま奥に入っていくと広い会議室に通され、そこで待っていると、男性の職員が入ってきた。
その彼の手には、見覚えのあるカルネ手帳が握られていた!
やった!やっと来た!これでバイクを受け取る事ができる!
「いつ来たんですか?」
彼は少しバツが悪そうに「実は一週間前に来ていたんだ」と言った。
「普通とは違う郵便物だったので別のところに置いていたんだ。」
なにい、来ていたのに知らなかったのか?
毎日毎日通っていたのは何だったんだ!
腹が立ってきたが、待ちつづけた書類が目の前にあるのでもうどうでも良くなった。
これからツーリングをするという自分の話を聞いて、彼は海外を旅行する時の注意点などを聞かせてくれたが、僕はもうそんなのはまったく耳に入らず、早くここから出たいとだけ思った。
さあ、バイクに会えるぞ!・・・・・とは簡単にはいかなかった。
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